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トンネル


ため息をついた。
此処まで来て、と自分でも思う。
けれど、迷っていた。
 
出口の見えない迷路に放り込まれたようで
ただ、悩む日々が続いていた。
好い加減嫌になって、何か糸口が欲しくて。
 
私は今、トンネルの前に居る。
 
 
悩んで、悩んで、胃も痛めてしまった。
どうすればいいのか、自分で答えを出そうと思っても
その解き方すら見当もつかずに。
深い奈落の底に捕まって逃げられない毎日。
 
もう嫌だった。
 
思い切って飛び込んだはずの其処は自分の思いとは
何一つ同じものがなくて。
ただ、迷いと絶望としか見えなかった。
どうしたら好いんだろう、善策を考える事も億劫で、
一個、また、一個と希望が消えていく。
 
 
そんな私が今、トンネルの前に居る。
 
 
ザァ、と風が通り抜けていく。
何故、トンネルをくぐろう等と思いついたのか、
もう理由は忘れてしまった。
 
迷いとトンネルを重ねて。
 
ただ、そんな馬鹿げた事でも好いから縋りたいほど、
追い詰められていたのかもしれない。
 
 
トンネルはただ、黒い口をぽっかりと開けて、
私を見下ろして居た。
 
また、ため息をついた。
いつまでもこうしていても仕方がない。
覚悟を決めてくぐろう。
 
私はパーキングに入っていたレバーをドライブに入れた。
 
 
選んだトンネルは長くて、ご丁寧にもこの辺りでは一番暗いもの。
外は汗ばむ程の陽気にも関わらず、中はしん、と冷えている。
何処から湧き出すのか解らない水音がしとしと、と聞こえる。
 
心臓が鈍く打ち始める。
気がつけば掌はじっとりと気味の悪い汗で濡れていた。
 
出たい、出たい、こんな所に居たくない。
もう、限界だ。
 
そう、思った瞬間。
 
目の前に不意に光が広がった。
トンネルは今、私の後ろに佇んで居る。
 
よくよく見れば、後ろの方には向こうの入り口が見えていた。
 
思わず、車を路肩に寄せた。
ドアを開けて、外に出れば、明るい日差しが照りつける。
背伸びをして、深呼吸をして。
 
ああ、私、悩んでいたんだっけ。
ふ、といつの間にか軽くなった心に気がついて一人、笑みを浮かべる。
 
心の中と現実とが一緒になったような不思議な感覚。
それでも、私はどちらもトンネルから抜け出せた、と思った。
忘れていた事。
どんなに長いトンネルでも、きっと出口があるという事。
 
 
私は今、トンネルの出口に居る。



ある方への応援の意味を込めて。             
「私」の淡々とした一人称で綴ってみました。             
いつもより少し、重い感じでしょうか…。             
皆さんもトンネルをくぐってみませんか?             
如何でしたか?

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