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五月の頃


どこ悪くないのになぜかすっきりしない、
いわゆる「五月病」。
何をするにも気が乗らない。
まして今日のように糸のような「五月雨」が
降っている日はたまらない。
1日がただなんとなく過ぎていく。
昼過ぎには上がるはずだった雨はまだ降り続いている。
すっかりやる気をなくして、午後の授業は自主休講。
 
雨の中、緑の豊かな公園を歩く。雨は細く、まるで、
霧のようにしっとりと空気を湿らせる。
傘をさすのが面倒になって、藤棚の下に避難する。
つい、最近まで枯れているようだった藤が緑の葉を
茂らせているおかげで、雨に濡れる事はない。
やや色あせた藤の花も悪くない。
ベンチに腰掛けて、ふと見ると、隣のベンチには一冊の本。
ページをめくると、澄み切った「五月晴れ」の空と鮮やかな
新緑が美しい1枚の写真。
タイトルは「五月の頃」。
思わず見とれる。
考えてみると、「五月」という季節はそんなに悪くない。
その写真を目に焼き付けてからそっと本を閉じる。
 
気がつくといつの間にか雨は上がって青空が広がっていた。
まだ少し雲は残っているけれど、なかなかのいい天気。
ふと辺りを見て気がついた。
あの写真が何故あんなに美しかったのか…。
 
そう、あれはまさに「五月雨」の後の「五月晴れ」の写真。
新緑があんなにも輝いて見えたのは雨の後だったから。
隣を見るともう本はなかったけれど、
そんな事はどうでも良かった。
 
目の前に360度広がっているのは、
きらきらと輝くとびきり素敵な「五月」の風景。



華(?)の短大生の頃、創ったものです。             
もちろん、動機は「五月病」。これにかからない年は             
まずありません(自慢にならぬ)。             
如何でしたか?

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