MとYは、街灯が灯った国道を自転車で走っていた。
二人は、夏になると夜、こうして自転車を走らせる。
昼間と夜とでは重力が違う。
夜になると、月はあちこちを照らすのに夢中になって、
地球を引っ張るのがおろそかになるらしい。
「やあ、今日は風が涼しいね。」
「そうだね、早く秋がくればいいのに、」
二人がいつもの様に公園にさしかかった時だった。MがYに囁いた。
「何だろう、灯りが見える。」
Yもじっと前方を見つめて頷いた。
「本当だね、何か、露店が出ているみたいだ。」
「季節はずれだな。ゆかた祭りはもう終わってしまったのに。」
「行ってみよう、」
「いいね、賛成。」
二人は立ち寄るつもりはなかったのだが、あまりの怪しさに
思わず、自転車のブレーキをかけた。
麦藁帽子の老人が一人、座っている。
台の上には小さな袋に入った金色の物が側の木に取り付けられた
ランプに照らされてまるで琥珀のように美しく見える。
「いい夜ですね、一ついかがです。」
「これは何なの、」
Yが老人に尋ねる。老人はそっと一つの袋の口を開いて見せた。
「『陽の露(ひのつゆ)』といって、昼間に良く日に当てた
朝露を固めて、砂糖の結晶をまぶした上から薄荷の葉で
くるんでおくのです。
そうすると、最初は甘くて後から少し薄荷の味がして、
一層、おいしくなるのです。」
『陽の露』は一層きらきらと輝いて二人を誘う。
「食べてみたいな、」
「いいね、賛成。」
老人は袋を一つずつ二人に手渡してくれた。
そして、片目をつぶって言った。
「今夜は月が好いから、サービスしておきましょう。
お口に合うようでしたら、また今度お願いします。」
二人は老人にお礼をいって、自転車のハンドルに『薄荷露』が
入った袋をぶら下げた。
老人は二人にゆっくりと手を上げて、ありがとうございます、と言った。
二人もありがとう、と言い、再び自転車を走らせた。
YがMに言った。
「一つ食べてみようか、」
「賛成、」
口に入れると、それは、確かに陽の味がした。
終
この飴にもモデルがあります。兵庫県の北部のとある町の
特産品の「げんこつ飴」なのです。名前可愛くないなぁ、笑。
無骨な見た目とは裏腹に繊細な味がとても美味。お近くにお立ち寄りの
際には是非、ご賞味あれ。土地柄も好い処ですよ。
如何でしたか?
▼戻