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Catch a cold +α



ふ、とT13は目を開けた。
 
「…?」
 
どうやら眠っていたらしいが、そこはどう見ても自分の部屋ではなく。
身体を起こせば、頭痛に加えてふらふらと重心が定まらない。
 
「気がついたようね、」
「…S?どうして、此処に?」
「あなた、倒れたのよ。」
「倒れた…?」
 
たった一人のS-Codeである彼の元相棒がプラチナブロンドを跳ね上げた。
 
「ええ、examination(試験)が終わった途端、ね。」
「そう、ですか…、情け、ありませんねェ。」
「そうね、ほら、熱はかって。」
「はい、」
 
だんだんとはっきりしてくる意識で見回せば、そこはSchoolの中の
保健室のようだった。生徒を連れてきた事が何度かある。
測定を知らせる電子音が響く。
 
「…。」
 
苦笑を浮かべて液晶を見る。それに気付いたSがさっと取り上げた。
 
「39度。まったく、どうかしてるわ。」
「すいません…、でも、何故、あなたが?」
「あら、ご不満かしら。」
「い、いいえ。」
「出払ってるのよ、医療班。大きな事件があって、そっちの収集に。」
「しかし、保健室には常時、居てもらわないと、子供達が、」
「Stop、今は自分の心配をなさい、」
「はァ、」
「あなたの友達もその事件に借り出されているし、M10と04ね。」
「そんなに大きな事件なんですか、」
「さァ、詳しくは知らないわ。あ、そうそう、生徒が一人、付き添うって
言って聞かなかったんだけど、」
「…Will?」
 
意外そうに少し、目を見張ったあと、Sが続ける。
 
「何?彼、あなたの隠し子?」
「…S?」
「冗談よ、M10が預かってるんでしょ。うつるから、と言って帰したわ。」
「どうも、」
「そんな訳で、忙しい私にあなたの看病が廻ってきたのよ、」
「もう、大丈夫ですから、」
「あのね、」
 
ふぅ、と溜息と一緒に聞こえない、おそらく悪態をつきながら。
 
「そんなのは責任じゃないし、優しさでもないわ。」
「?」
「今回だって、軽いうちに少し休んで治してしまえば好いのに、
こうして酷くなるまで放っておくから、長い間、休む羽目になるのよ。」
「わ、解かりました、」
 
若干、迫力に押されながら、T13は頷いた。
 
「誰かの為に頑張るつもりなら、まず、自分を大切にして。」
「…、」
「薬、飲みなさいよ。水を貰ってくるわ、」
「S、」
「何?」
「ありがとう。」
「一つ、貸しにしておくわ、」
 
少々、乱暴にドアが閉まったのはどうやら照れ隠しのようだった。
変わっていない、自分がM13で、彼女がW13だった頃と。
しかし、今回は少し無理をし過ぎた、と反省していたのは事実だった。
 
「あ。」
 
身体を横たえた瞬間、また、飛び起きる。
 
「しまった、examinationが終わったら次は採点しないとッ!」
 
慌てて、側の椅子にかけてあった、ネクタイとスーツを掴む。
 
「何処へ、行く気かしら?」
 
その声を聞いた瞬間、確かに背筋が凍った、と思った。
 
 
「さっきの話、全然、解かってないじゃないッ!!」
「す、すいません〜、でも、ほら、採点を…、」
「五月蝿いッ、さっさと寝るッ!」
「はい、」
 
すごすごとベッドに戻ると、すぐに水の入ったコップと薬が渡される。
 
「…どうしても飲まないと、いけませんか?」
「当たり前でしょう。」
「だって、眠くなるじゃないですか?」
「寝なきゃ、風邪は治らないでしょうが。」
「だって、!」
 
肩にそっと手が置かれる。
 
「…銃を抜くわよ、先生?」
「よ、喜んで飲みますともっ、」
 
T13は急いで、錠剤と水を飲み込んだ。
 
 
「…10?と、Will?何やってんの?」
「しーッ!!04、まァ来いよ。」
「???」
 
T13が倒れたと聞いて駆けつけたM04は保健室の前で
聞き耳を立てている二人に、呆れたように問い掛けた。
 
「へへへ、好い雰囲気なんだ、邪魔しちゃ悪いぜ?」
「Sさんと、先生がいるんだ。」
 
同じように目を輝かせる二人に苦笑を浮かべる。
 
「で、此処で、中の様子を盗み聞きしてるって訳?」
「ああ、そうさ。でも、さっきから静かなんだ。」
「へェ?」
「何してんのかねェ、しっしっし、」
「10…、」
 
がちゃ。
 
「がちゃ?」
「本当、何してるのかしらねェ?」
「や、やぁ、S。」
「あ、わわわ、べ、別に何にも、してませんっ。」
「してませんっ、」
 
Sに連行されて入ってきた友人達を見て、T13は笑みを禁じえなかった。
 
「見つかりましたねェ。」
「全く…、さて、と。あなた方は事件ではなかったの?」
 
M10がやっと落ち着きを取り戻して言う。
 
「あんなの、clientがお得意さんってだけさ、」
「そう。」
「まァ、粗方片付いたし、後は処理班に頼んできたんだ。」
 
プラチナブロンドを跳ね上げ、Sはコートを羽織った。
 
「それじゃ、後は頼んで好いかしら。
未だ、今日中に三人程、当たりたい人材がいるの。」
「勿論、任せてくれよ、Honey!」
「相変わらずね、M10?」
「まァね、君も相変わらず、美しい。」
「そういうのは、新しい彼女に言ってあげなさい、それじゃ、宜しく。」
 
軽くいなされて落ち込むM10と、それを笑ったWillが小競り合いを始める。
 
「気をつけてね、S。」
「ええ、ありがとう、M04。」
「あ、」
 
Willが走って行って流行のcough dropsを差し出す。
 
「はい、頑張ってください。」
「あら、ありがとう。私、これ大好きなの。」
 
しゃがんでWillを覗き込む。
M10が拗ねているのに苦笑しながら、T13が言う。
 
「S、」
「何?」
「もう、夕方なのに、これから三人も?」
「ええ。少ないくらいよ、」
「あなたの代わりはいませんからね、」
「その通り、S-Codeは私一人だけのものなの。」
 
ドアにかけた手を戻して、少し冗談めかしてSが笑顔を見せる。
 
「私は志願してS-Codeに。あなたがT-Codeに移ったからではないわ。
自惚れないでね、」
「ええ、解かっていますとも。」
「それじゃ、」
 
長い髪を跳ね上げるのも昔と代わらぬ彼女の癖。
 
「気をつけて…、」
 
今度はもう、振り返らずに。
 
「…あなたじゃないの、心配しないで。」
 
ばたん。
 
「うーん、相変わらず厳しいけど、美しいねェ。」
「10、またフられるよ?」
「五月蝿ぇ、」
 
M04が呆れたように言う。
 
「もう、新しい彼女が出来たのかい?」
「まだ、彼女って訳じゃないけどな、可愛いんだ、これが。」
 
薬が効き始めたのか、眠気を覚えながら、T13が呟いた。
 
「10…、彼女は、厳しくなんかありませんよ。」
「ん?」
「彼女は、きっと誰よりも優しい人です…、だから、…。」
「13?」
「…。」
 
M04が覗き込んで言う。
 
「寝てる。」
「薬のせいだろ、珍しいよな。あまり人前じゃ気、抜かないのにな。」
「彼女は、特別、じゃないか?」
「でも、よく効く薬だな?」
 
Willが常は保健医が座っている机から瓶を取り上げてみせる。
 
「あ、これじゃない?」
「どれどれ、…。」
「どうしたんだ?04、」
 
「sleeping drug(睡眠薬)…。」
 
M04の声は夢の中に居るT13には聞えるはずもなく。
 
「優しいん、だよな?」
「そ、そうさ、別に面倒くさいから眠らせたとかじゃないよ、きっと、」
「Sさんって好い人なんだねェ。先生、気持ち好さそうに眠ってるもの。」
「…。」「…。」
 
二人の少し複雑な心境とは別にT13の安らかな寝息が聞えている。
 
 
外は身を切るように寒く、昨夜からの雪が足元を悪くさせていた。
その中をよろけもせず、颯爽と一人の女性が歩いていく。
 
「おやすみなさい、13。あなたに必要なのは休息よ。」
 
くす、と笑ってSはプラチナブロンドを跳ね上げた。



おまけの癖に本文並みに長いです;             
一応、コメディ、二人の関係は勿論、友人ですが             
T13は彼女には頭が上がりません。             
Sさん、格好良い人を目指して書いてます。             
素直じゃないけど、結局二人はお互いに             
解かりあってる、と、そんな感じで。
彼女についてはA.S.S.シリーズの9をご覧下さい。             
如何でしたか?

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