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That's my work!



S.A.における特殊コードの一つ、”O-Code”。
その名も高きプロ集団。
 
所謂”Officeworker”事務員である。
 
とはいえ、社員の仕事が仕事なだけに、それは、
他の会社とは、違う。
 
昼夜を問わず、掛かってくる電話の応対を涼しい顔で
こなしながら、手もとの書類の束がどんどんと、
消化されていく。
 
一人の女性が、出社するなり、鳴りだした電話をとった。
 
「はい、S.A.本部です。こちらは、O12です。」
 
社員専用に回線である。どうせまた、ヘリをまわせだの、
撃たれたから、助けてくれという電話だろう。
 
「あー、えと…、」
「はい?」
「M04ですけど…、」
「はい、どうしました?」
 
直接、口を聞いた事はないが、よく知っているCodeNameだった。
昨日も同僚から、如何に彼が素敵か、を聞かされたところだ。
飛びぬけて容姿が好い訳ではないが、とにかく、人気がある。
コートを脱ぎながら、応対を続ける。
 
「あの、悪いんだけど、自転車一台、出してもらえるかな、」
「は?」
 
思わず、メモする手が止まる。
聞き違いではないだろうか、自動車では無いのか。
 
「な、無いの、かな?」
「あ、ええ。自転車はなかったと思いますわ。」
「まずいなあ…、」
 
くすり。
 
仕事中、滅多にもらさない笑みを彼女は浮かべた。
こういうAgentもいるんだ、と少し、可笑しくなった。
 
「どうされたんですか?」
「今度の仕事にいるんだよね、」
「それでは、経費で落とされては?」
「うん、それがね、
社長から経費削減を言い渡されたばっかりで…。」
 
O12は、肩の上で切りそろえた髪を耳にかけた。
途端に受話器から聞こえる声が大きくなる。
 
「仕方ないか、ごめん、仕事の邪魔したね、それじゃ…」
「M04、」
 
思わず、声を掛ける。
 
「もし、好かったら、私のお貸ししましょうか?」
「あ…、好いの?」
「ええ、いつも、自転車通勤なんです。」
「へえ、大変だね。僕も見習わなきゃなあ。」
「それで、どちらへ?」
「あ、ああ。もうすぐ、下へおりるよ。
実は、君の頭上にいるって訳さ。」
「まあ、それなら直接おっしゃってくだされば好かったのに。」
「いや、その…、うん。」
「入りにくい、ですか?」
「い、いや、そんな事は…、無いよ、うん、無い。」
 
図星だったらしい。無理も無い、彼が降りて来るや否や、
幾人かの熱い視線が集まるのは、関係の無い自分にも
解かるくらいなのだから。
 
「いいんですよ、それじゃ、裏口でお待ちしております。」
「そう、助かるよ。じゃ、今から行っていいかい?」
「はい。」
 
 
電話を切った04へと、声が掛かる。
 
「おう、おはよう。女か、M04?」
「ああ、M01、違いますよ、事務です。親切な人がいて、
自分の自転車貸してくれるって…、」
「もしかして、O12?」
「あ、そうです。」
「綺麗な子だぞ?羨ましいよ、」
 
言い返す暇も与えず、01は手をひらひらと振りながら、
自分のオフィスへと入ってしまった。
 
「はぁ、相変わらずだなあ。」
 
少し苦笑した04は、相手を待たせている事に思い当たって、
エレベーターへと走った。
 
 
「ごめん、ごめん、待ったかい?」
「いえ、」
 
確かに美人である。切りそろえられた金髪に青い瞳。
一見すると、冷たそうに見える。
 
「鍵はつけてありますわ、」
「ああ、有り難う。きっと、無傷で返すからね。」
 
くすり。
 
笑うと、冷たさが一掃され、素顔が顔を覗かせる。
 
「期待はしてませんわ。あなた方Agentは、いつだって、
滅茶苦茶なんですもの、」
「面目ない…、始末書や伝票の整理、大変だろうね。」
「ええ、本当に。」
「Agentを代表して謝るよ。」
 
さも申し訳無さそうに頭を下げるM04にO12が首を振る。
 
「いいえ、だからこそ、遣り甲斐があるんです。」
「え、」
「命を張って仕事をなさってるAgentの方を支える仕事ですもの。
私たちも負けないような事をしなくては、と思っています。」
「…。」
「あ、」
 
喋りすぎた、と、白い肌を少し紅潮させる。
M04の驚きに大きくなった目がやがて、細くなる。
 
「有り難う。君達がいなけりゃ、僕等の仕事なんて
成り立たないからね。」
「でも、あなたの様な方は少ないんですよ。」
「ああ、みんな結構偉そうに言うんじゃないの?」
「ええ。」
「申し訳ないねえ。」
「M04が悪いわけでは…、あ、時間、大丈夫ですか?」
「しまった、それじゃ有り難う!あ、君、帰るのは何時?」
「午後六時退社の予定です。」
「じゃ、それまでに帰ってくるから、」
「別に構いません、歩いてもそう遠くないですから。」
 
そう言ってもらえると助かる、と手を上げて自転車を走らせていく
Agentを見ながら、O12は、微笑んだ。
 
人気があるのも、解かる気がする。
 
でも、何より、自分たちの仕事を認めてくれている者達もいるのだ、
その事が嬉しかった。
 
「さ、今日も一日、がんばろうっと、」
 
過酷な一日はまだ、始まったばかり。
ドアを開ければ、そこには彼女の”仕事”が待っている。
 



お勤めになられている全ての方々へ。             
安っぽいかもしれませんが、             
"働いている人は格好良い"             
という思いを込めて…。             
如何でしたか?

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