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I'm happy with you.



オレは、寒さと頭に走る激痛に目を覚ました。
見た事無い部屋、何処かの地下らしい。
…此処は何処だ?
 
オレが思い出すより先に奴が口を開いた。
 
「目が覚めるのが遅いね、Agent?
少し、強く殴りすぎたか、と心配したよ。」
「…誰だよ、お前。」
「君の代わりに落とされた負け犬さ。」
「??」
 
今まで、暗闇に溶け込んで解からなかった
奴が、小さな電球の灯りの輪の中に入った。
ようやく、顔が見える。
 
どこかで、見た事のある顔だった。
どこかで…。
 
「解からないかい、君はAgent10としてS.A.へ、
僕は路頭に迷う事に…、実力はほぼ互角、だったのにね、」
「ああ、お前、あの時の…。」
 
古い話だ、オレがAgentとしての審査を受けた日。
スカウトされたのはオレとこいつ。
で、通ったのがオレ。落ちたのはこいつ。
 
「で、恨んでるって訳か?」
「実力で、負けたのなら潔く負けを認めたさ。でも…、
君に負けたとは思っていない。」
「なら、なんで落ちたと思ってるんだ?」
「ふざけるな、君は、知ってたんだろ!?」
 
突然、奴がオレの胸ぐらを掴んだ。
 
「何を?」
「視力が関係あるってことを、さ!」
「あぁ?」
「何しろ、君と審査員の女性はデキてたんだ!
ははッ、真面目に受けた僕は馬鹿を見たって訳さ!!」
 
どさ。
 
くそ、こいつ、縛られてなけりゃ、殺してやるのに。
オレばかりでなく、彼女まで、馬鹿にしやがって。
 
「彼女はそんな事、してねえよ。」
「嘘だ。」
 
人の言う事、信じろっての。
 
「とにかく、何がしたい?何の目的でオレを此処に?」
「君と、直接勝負する為さ。」
「上等。もちろん、縄は解いてくれるんだろうな、」
「もちろんさ、でも、それは”gallery”ギャラリーが来てからだ。」
「”gallery”?」
 
ちょうど其の時、頭上で、ドアが開く音がした。
外の冷たい風が一陣、コンクリートの床で舞う。
 
「10?大丈夫なの?」
「成る程、あの時の審査員に見てもらおうって事ね、O.K.」
「今じゃ、君の相棒らしいね。だから、僕は解かったのさ。」
「縄を解けよ。」
「ああ、いいとも。」
 
そいつはオレが挑戦を受けると思ったらしい。
何の疑いも持たずに縄を解いた。
もちろん、その隙を見逃すオレじゃない。
 
2秒後。
 
オレの銃はそいつの頭に突きつけられていた。
 
「き、汚いぞ!」
「お前、馬鹿か?」
「何ッ!?」
「誰を相手にしてる?」
「…?」
「”Knight”騎士じゃない、オレは、」
 
カチリ。
 
「”Killer”殺し屋だぜ?」
 
銃が火を吹く。
当てはしない、お前みたいな奴は嫌いじゃない。
 
「外れだぞッ!」
 
今度は奴がオレに銃口を向けた。
 
「やめとけよ。」
「何だよ、怖いのか!?」
 
いくら言っても無駄か、なら、仕方ない。
 
銃弾が発射されたのは同時だった。
女の声が響く。
 
「10!!」
 
オレを気遣う声じゃない、素人相手に銃を向けた事への
非難の声。奴が倒れるのを背中で聞いた。
 
「急所は外してある、病院へ運んでやってくれ。」
「…。」
「それと、本当の事、言ってやれ。」
「10…、」
「解かってるよ、W10、君がそいつに惚れてたのは。」
「…そう。」
「じゃ、また、明日な。」
「ええ。」
 
オレ達はAgent。
甘えは許されない。人に弱みを見せることも。
奴が落とされたのは、目が悪いから、なんかじゃない。
それは、彼女の苦し紛れの優しい嘘。
 
 
「いってぇぇぇッ!!」
「動くからですよ、」
「じっとしてても、痛えよ!?」
「そりゃ、傷があるんですからね、」
 
T13が意地悪く言う。
 
「でもさあ、何で撃たれたんだよ?」
「…。」
「何でだよー?」
「…。」
「ま、いいけどね、話したくないなら。」
 
M04が、とてもいいとは思えないような目で睨む。
話したくなかった訳じゃない。
ただ…。
 
「04、きっとそのうち、10から話してくれますよ。」
「13…、」
 
優しい、と思ったのも束の間。
 
「彼は黙ってるって事ができない人ですから。」
「ッんだとお!?」
 
でも、13の言う通り。
きっとこいつらなら、何があっても大丈夫。
多分、明日には、話したくなるに違いない。
 
「なあ、二人とも、有り難う、な。」
 
04と、13は、目を見合わせて、本当に心配そうな顔をした。
 
「だ、大丈夫ですか?やっぱり、病院、行きますか?」
「気付けにはブランデーが良いんだぞ?」
 
04は、ブランデーの入ったグラスを差し出す始末。
オレはそれを半ば奪いとって、叫んだ。
 
「よぉしッ!んじゃ、今日は呑もうッ!!」
「元気じゃないですか〜。もう、心配させて。」
「そうだよ〜。ま、いいや、呑もう!」
「そうそう、日本酒があるんですよ、如何です?」
「呑む、呑む!」
「オレ、日本酒、好きなんだよなぁ!」
 
そうさ、Agentには、甘えも弱さを見せることも許されない。
だけど、今のオレには、こいつ等がいる。この場所がある。
これは、恋人なんかじゃ埋められないんだ。
こいつらじゃなきゃ、埋められない。
 
すぐに酔いが回って、気分が好くなる。
何を聞いても、可笑しくて、最後には何だか解からないのに泣けてくる。
 
「ほら、泣かない、泣かない。」
「う〜、13〜、」
「あはははははッ!」
「04、笑いすぎですって、もう。」
 
オレは泣き上戸で、04は、笑い上戸。
13は、ちっとも変わらない。
見慣れた風景、でも、今日は…。
そう酔ってる訳じゃないんだ、何だか、此処があんまり暖かいから。
 
オレは、今、病院で治療を受けてるあいつに心の中で礼を言った。
この幸せを気付かせてくれたのは奴だから。
 
木枯しが窓の外を通り抜けていく。
もうすぐ、X'mas。今年は雪が降るらしい、と、Newsが告げている。
 



なんか、10が主人公になると、             
すごく話がアダルトになるんですけど(笑)。             
大人の苦味とか、でも、結局、根本で、             
大事なものなんか、大人も子供も変わりゃしないのよ、            
っていう事が言いたかった訳です。             
ちなみに…、             
「怪我してる時って呑むと好くないんじゃないの?」            
なんて事は言いッこなし(汗)v             
如何でしたか?

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