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T-Code


Secret Society。通称S.S.。
所謂、裏稼業の大御所といわれるAgency。
ありとあらゆる分野の仕事のprofessional(プロ)が集う。

主に仕事を請け負うAgentが、G(Girls)、W(Women)、
B(Boys)、M(Mens)、に分類されるのに対し、特殊なCodeも
存在している。

T-Code。
未来のAgentを育てる事にのみ、従事する者達の専用コードである。

T13。
彼もその一人。
敢えて、教育者としての立場に身をおいてはいるが、
元は"Shi-no-bi"と呼ばれるJapanese Spy。
敵中に落ちれば、死しても秘密を守る、と信頼の高い集団だ。


「T13。」

慣れ親しんだ自分のCodeを呼ばれて振り返ると、
かつての仕事仲間が、手を振っている。

「M10、久しぶりですね。」
「どうだい、授業は。先生、」

彼はM10の冷やかしに笑顔を返した。

「今年の新入生はなかなかですよ、あなたも気をお付けなさい。」
「相変わらずだなあ。」
「で、何か用では?」
「ああ、明日は日曜だろ、何かあるのかい?」
「いいえ、特に。でも、あなた方のCodeは、日曜など
ないでしょう?」
「いや、今日、一仕事終わったのさ、明日は休みって訳。」
「成る程。」
「だからさ、今夜、ちょっと呑まないか、」
「構いませんよ。」

T13は快諾した。彼らのCodeは、毎日曜、休みである。

「どうせなら、家に来ませんか?」
「いいのかい、」
「構いません、出掛けるよりはいいですから。」
「なら、美味い酒を持ってくよ。」
「ええ、楽しみにしてますよ。」
「じゃ、今夜、な。」
「ええ。」

M10を憧れの眼差しで見つめる自分の生徒達を
見ながら、T13は一人、微笑んだ。


ブザーが鳴って、返事もしないうちに大きな声がドアを通して響く。

「おうい、開けてくれよ、」

鍵を開けながら、T13がわずかに顔をしかめる。

「近所迷惑ですよ、M10。」
「はいはい、先生。」
「やあ、僕もお邪魔して好いかな、」

後ろから顔を覗かせたのは、M04だった。
T13は、どうぞ、と頷いた。
玄関には二足のスリッパが用意されている。
彼は、部屋の中では靴を脱ぐ事にしている。

「解かってたみたいだね、」
「ええ、待ってましたよ。」

Japan出身の彼の部屋はいつ来ても、綺麗に片付けられており、
居心地が好かった。

「久しぶりですね、三人で集まるのは。」
「ああ、君がT-Codeなんかに、転属を願い出たからな。」
「M10、やめろよ。」
「いいんですよ、04。」

M10がT13のグラスへと、アルコールを注ぐ。

「なあ、なんで、M-Codeを捨てたんだよ?」
「何故でしょうね、」

今度はT13がM10へと、酒を注ぎながら、微笑んだ。

「もうそろそろ、訳を話してくれても好いんじゃないか、」
「それは、僕も聞きたいな。」

二人に言われ、彼は、少々困ったような顔をしたが、やがて、
頷いた。

「そうですね、仕事が…出来なくなるのが怖かったんです。」

M10が、思わず、グラスを強く、テーブルに置いた。

「何でだよッ!?君の能力は、Bossだって評価していたし、
それに、この三人の中でだって、一番、優秀だっただろ!?」
「買いかぶり過ぎです。」
「いや、」

今度はM04が口を開いた。彼はM10よりも冷静だ。

「そんな事はない。
君は、暗殺から、情報収集まで、広い範囲の仕事をこなしていたし、
僕等のように、銃やナイフだけでなく、毒や薬にも詳しかった。
何故、突然に、辞めてしまったんだ?」
「いいえ、辞めていませんよ、04。
教師として仕事には就いています。」

T13が静かな調子で反論する。

「それで、君は満足か、」

M10がややきつい調子で、聞く。

「それは、どういう意味ですか?」

不意に、T13の口調から常の穏やかさが消えた。

「言葉通りさ、」
「おい、M10、」

M04の制止を無視して、なおもM10が続けた。

「04、君は根っからのSpyだが、
オレ達の様に"Killing"(殺し)を生業にしてた奴っていうのは、
結局の所、殺人鬼と変わりないのさ、」
「?」
「つまり、心のどっかでは、"仕事"が愉しい、って思ってるんだ、
それが、人の道に反れると解かっていても、ね。だから、」

M10が、T13を見据えて言い放つ。

「教師なんかで、満足なのか、って聞いたんだ。」

しん、と重苦しい空気を割って、T13が口を開いた。

「私が、なんと呼ばれているか、知っていますか?」

「「"Gentle Killer"(優しい殺し屋)?」」

二人が声を揃えて言うのを聞いて、T13の顔に微笑みが戻る。

「ええ。
その意味の中には"腰抜け"という嘲りが混じっている事も
知っています、でも…。」

一呼吸、おいてT13の言葉が続く。

「私は気に入っているんですよ。
ただ、"Killer"と呼ばれるよりはずっと好い。」
「T13…、」

M04の気遣わしげな声にT13はにっこり、と微笑んだ。

「04、私は教師、という仕事に誇りを持っています。
教え子たちには心あるAgentに育って欲しい、と思っています。」

今度はM10の方を向いてT13が言う。

「10、」
「…。」
「心配してくれて、有難う。本当は君の方が優しいんですよね。」
「…。」

M04が溜息をついて、下を向いている10を突付いた。
「10、」
「…。」
「ほら、」

M04が、相変わらず微笑んでいたT13に肩をすくめて見せる。

「いいんですよ、何かあったんでしょう、10?」

ぴくり、とM10の肩が震える。
下を向いたまま、小さな声で呟く。

「T13…、」
「はい?」
「ッごめんようッ!!」

がし。

「うッ!?」

M10が謝罪の言葉と共にT13に抱きついたのだ。
T13が突然の事に、目を白黒させてうめく。

「うえええ〜ん、13〜!!」
「わ、わかりましたから、離してください。」
「嫌だあッ!」
「や、やめなさいッ!もう、この酔ッぱらい〜。」
「あはッ、お似合いだぜ、二人とも。」

そんな二人をみて、M04がひっくり返って笑っている。

「わ、笑ってないで、止めてくださいよッ、04!」
「ダメだよ、泣き上戸だからな、10は。
当分は離してもらえない。」
「13〜!!」
「ああ、よしよし。」
「あはははは、」
「笑わんで下さい、04。」
「はははははは、」
「…あなたは笑い上戸、でしたね…。」

一時間後、T13は部屋を片付けながら揃って寝入ってしまった
友人達を見て、苦笑した。

「仕方の無い人達ですねえ。でも…、」

今度は愉しそうに笑った。
気がついたときには、Codeなしで、呼んでいた。
一緒に仕事をしていた、昔のように…。

「ありがとう。今夜はとても愉しかった。」

外は木枯しが吹き荒れているが、此処は温かい。
T13は穏やかに微笑んで、彼等の横で月曜の授業の予習を始めた。






            
「斜堂先生風味なAgents-Secret society」(笑)。             
これから、他のCodeも登場するかもしれません。             
お楽しみに(?)♪             
如何でしたか?

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