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His work is...


女を送り出したマンションの一室でM10はゆっくりと煙草に火を点けた。
夜、午前零時を少し回った所だ。
階下で、絹を裂くような女の悲鳴が聞こえた。
 
「さて、出かけますか。」
 
M10は長い髪を束ね、trademark の黒のスーツを掴んで部屋を飛び出した。
 
ちょうど、玄関ホールまできた所だった。
両側から黒装束の男が銃を持って姿を現した。
一人は女に銃を向けている。
 
「動くと女の命は無いぜ。」
「お前が"Woman Chaser" 女好きなのは、知ってるんだ。」
 
M10はやれやれ、と呟き、両手を挙げた。
もう一人が男の腰にあった銃を取り上げる。
 
「元"Assassin"も、銃がなけりゃ、ただの女たらしか?」
 
黒装束は蔑むような笑みを浮かべた。
 
「情報が欲しいだけだ。素直に教えれば、命は助けてやる。」
「彼女は?」
 
別段、慌てる様子もなく、M10が問う。
 
「もちろん、無事に帰れるさ。」
 
彼の仕事の関係上、こういう連中は後を立たない。
事実、彼の主な仕事はその始末にであった。
会社や、同僚の不都合の種になる輩を闇へ葬るのである。
 
「で、何が知りたい?」
「M04の事さ。」
 
敵の口から漏れた意外な名前にM10は眉をひそめた。
 
「04?」
「そうだ、奴の本名は?どこに住んでる?」
 
首を振って答える。
 
「そういう事はAgent 同士でも知らないぜ?
まあ、知ってても、教えるつもりはないがね。」
「女がどうなっても好いのかい?」
 
黒装束が女のこめかみに銃を押し付けた。女が叫ぶ。
 
「助けてッ!」
「女には、優しいんだろ?Agent M10?」
 
M10は少し短くなった煙草をゆっくりと吸った。
 
「おい、動くなよ。どうした、簡単なことだろ?
お前は仕事より、愛情を取る男だ、と聞いてるぜ?」
 
敵の問いにM10は笑みを浮かべた。
 
「成る程、よく調べてるな。」
「そうなんだろ?」
「参ったね、わかった、情報を教えよう。
だが、その前に彼女を放すんだ。」
「そうだな、素人を殺すと後が面倒だからな。」
 
黒装束が素直に女を突き飛ばした。
だが、情報に頼りすぎるのは裏の仕事をする者にとって、
時に命取りになる。
 
「さっきの話だが、」
 
M10が落ち着いた様子で、口を開いた。
 
「おい、余計な口を叩くな!?早く、04の居場所を、」
 
慌てて、黒装束は女からM10へと銃口を向けた。
M10は手を挙げて、言った。
 
「愛情ってのは、友情も入るんだぜ?」
 
ドンッ!
 
取り上げた銃の引き金を引こうとした、後ろの黒装束が
吹っ飛んだ。
M10の銃が暴発したからだ。もちろん、偶然ではない。
あらかじめ、銃弾型の小型爆弾を仕込んでおいたのだ。
 
もう一人の黒装束が慌てて、引き金を引こうとしたが、
それより早く、女の銃が火を吹いた。
 
「…?」
 
黒装束の顔に「何故?」という表情が見て取れる。
 
「彼女の武器は"Lie"嘘、だ。」
 
M10はそう言って、男にとどめの弾を打ち込んだ。
 
「全く、あなたと組むといつもこうなのよ。」
「そう怒るなよ、W10。綺麗な顔が台無しだ。」
「五月蝿いわよ。それに、私の武器は"嘘"じゃないわ。
"Acting" 演技なのよ?何度いえば解かるの?」
「ああ。惜しまれつつ、急死した元美人女優が
君の正体だって知ったら、今の男はどうしたろうねえ。」
「私の死は偽装。だから、こんな任務でも変装するんじゃないの。」
「そうだったな。」
 
変装の下からは並外れて美しい顔が現れた。
 
「早く、04に連絡してあげなさいよ。彼の事だから、寝ずに待ってるわ。」
「おや、あいつには親切だな。」
「あら、知らなかった?彼、女子社員に人気があるのよ。」
 
コール音が鳴るか鳴らないかのうちに電話口に04の声が響く。
 
「はい、こちら、04。10か?」
「あ、04か。片はついた。ゆっくり寝てくれよ。」
「悪いね、社長がこういう仕事は君のほうが上手い、というから。」
「ああ、いいさ。君じゃ優しすぎる。」
「はは。W10にもよろしく言っといてくれよ。それじゃ、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
 
社長と、処理班に電話した後、M10が、にやり、と笑う。
 
「04が君に、よろしく、とさ。」
「まあ、やっぱり、彼って素敵ね、」
「へえ、ああいうのが好みなのかい?」
「あなたのような"Women Chaser"よりはずっと素敵よ。」
 
M10は肩をすくめて、おやすみ、と踵を返した。
W10がその腕を取って、引き戻す。
 
「あら、怒ったの?」
「いいや、君が引き止めてくれるのを待ってたのさ。送っていこうか?」
「ええ、」
 
一仕事終えれば、翌日は、休日だ。
まだ、ざわめきの残る街が二人を、優しく包んでいった。
 
 



うわー、初めて書きました。             
こんなアダルトなお話(笑)。             
M10のモデルは某神出鬼没の大泥棒だったり。             
Agentシリーズ、書くのがすごく愉しいです♪             
如何でしたか?

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