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a storm


街路樹もだんだんと色づいてき、日々、秋が深まっていく。
やや季節外れのハリケーンの到来をTVのニュウスが伝えていた。
僕は、正直驚いた。
誰もいないと思っていたOfficeにTVが鳴り響いてるなんて、
少し不気味だったから。
思わず、身体に力が入ったその時…。
 
「D'ont Move…、」
 
こめかみに当たる冷たい感触。
手を上げながら僕は見えない相手に告げた。
 
「CodeName、M59」
 
重苦しい空気が緩む。
銃が下ろされ、相手が手を上げつつ、姿を見せる。
「こっちは、M04だ。」
 
僕は、自分の目を疑った。いつも冷静な彼には珍しく
酔っているらしい。
 
「どうしたんですか、04?」
 
その問いには答えず、04が言う。
 
「任務帰りか。何故、真っ直ぐうちへ戻らなかったのかな、
今日は嵐だ。」 
「かなり危険な任務だったので。結果を報告するまでは
Officeの方が安全ですから。
で、あなたは?何故、此処に?
今日は早く上がるように、と通達があったのに。」
「なぜだろうなあ、」
 
はぐらかすように笑って、彼はグラスの中の琥珀色の液体を
飲み干した。グラスに添えられた右手には煙草もあった。
 
「煙草、吸われるんですか?」
「今日だけ、さ。」
 
またも、のらりくらり、微笑むだけ。
でも、それも仕事柄、仕方の無い事。
僕は別段、腹を立てることもなかった。
 
「04、僕も頂けますか、」
「君は、未成年だろう、59?」
「いえ、今年からCodeがMになりましたから、」
「成る程。」
 
未成年はG(girls)かB(boys)いづれかの頭文字がつく。
僕は今年からM(mens)になったというわけ。
給湯室から、04が氷とグラスを持ってきた。
ウィスキーの瓶を傾ける。
 
「さあ、どうぞ。仕事の成功に、」
「ありがとう。」
 
キリン。
 
ガラスのぶつかる音が薄暗い部屋に響く。
欲しい、と言ったのは僕だけど、本当はアルコールは少し苦手だ。
まだ、おいしいとは思えない。
でも、今夜の04だって美味しくて飲んでいるようには見えない。
いわゆる"Drink out of desperation"、自棄酒ってやつさ。
 
バン。
 
大きな音とともに湿った風と雨の匂いが部屋を包む。
04が窓を開けた。
 
「雨は上がったようだ。」
 
どこか愉しそうな04の声。僕は肩をすくめつつ、言った。
 
「でも、風は強い。あ、ほら、書類が、」
 
風に舞った書類を04が掴む。
ちらり、と目を走らせ、途端、吹きだす。
 
「?」
「ほら、見てご覧、上手いもんだね。」
 
その書類を覗き込んだ僕は思わず、04と同じように吹きだした。
そこには、ややdeformされた01の似顔絵が描かれていたから。
 
「この机は、誰だったかな。」
「そこは、G59です。僕と同じ番号の、」
「ああ。赤いコートの…。」
 
彼女はこの会社には珍しく赤いコートがtrademarkのGのコードを
持つ社員だ。人の印象に残ってはいけない、と上司からはいつも
言われているのに。
 
ふと見ると、04が窓に腰掛けて外を覗いている。
グラスを片手に煙草をくわえて。
普段、真面目できちんとした人だけに、妙にcool。
彼の机の上の空き瓶はかなりの数だ。
 
「04、少し飲み過ぎでは?」
「ん?」
 
ふ、と我に帰ったように04が僕に問い返す。
全く、こういう仕事をしているのに人に背中を見せるんだから、
この人は。僕は少々、呆れた。
でも、こうしていても隙が無いのだからそんな心配は無用かも。
 
「飲み過ぎですよ、」
「ああ、」
ぽん、と窓から飛び降りて04は手元のグラスに煙草を押し込んだ。
 
ジュウ。
 
火が消える音がする。
もういつもの冷静な彼に戻って僕に微笑む。
 
「煙草も体に悪いしね。」
 
本当になんて人だろう。
僕は内心、呆れつつ、自分のグラスを置いた。
 
「59、今度の任務は何処だったんだい?」
「ええ、今回はjapanです。Osakaの…、」
「…、…、」
「…。」
 
他愛の無い仕事の話。僕は、この人を尊敬している。
でも、それは、決して口には出さない事。
それが此処の"rule"ルール。
僕らの仕事には秘密はつきものなのだから。 
 



これは、こねっちさんに捧げます。             
とか言いつつ、結構自分も愉しんでます。             
かなり、趣味丸出しなキャラクターの彼等。             
小さい頃から秘密組織は憧れの的でした。             
如何でしたか?

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