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Spring has come!



「梅は咲いたか、桜はまだか、」
「cherry blossoms?」
「そう、桜、ですよ。」
 
彼には珍しく浮かれた様子の友人にM04は尋ねた。
歌うように発せられた言葉の真意を尋ねたのだけれど、と
困ったような笑顔を浮かべる彼にT13は楽しそうに言う。
 
「Japan の伝統的な歌の一節だったと思うんですけどね、」
「へぇ。」
「私達の国には四季があって、」
「おれはそれよりJapan のsake が好きだなァ、おかわりッ!」
 
13の笑顔を苦笑へと変えたのはもう一人の男。
 
「10、止めておきなさい。明日も仕事でしょう?」
「何だよー、これくらい大丈夫だって、」
「そうだよ、早く帰ってあげなよ。」
「あん?」
「Will、待ってるんだろ?」
「ふん、」
 
04と13がまたか、と肩をすくめるのを見て、10が声を上げた。
 
「違う違う。ケンカじゃなくて、何でも友達ん所に泊まるんだと。」
「それで、いじけてるわけですか?」
「なっ、おれはいじけてねぇっ!!」
「あー、五月蝿い、五月蝿い。」
「何だとぉっ!」
 
piririri....piriririr...。
 
「おや、」
「ん?女か。」
「君ではありませんよ、」
 
10に呆れ顔で答えながら13がsimpleなcellular phone(携帯電話)を
取り上げた。
 
「はい、」
『せんせぇ〜〜〜、』
 
周りにも響く高い声にM10が驚いて尋ねる。
 
「えっ、Willかッ!?」
 
なんだかんだいってしっかり保護者が板に付いてきている
友人に笑いをこらえつつ。
 
「違いますよ、えと、どちら様でしょう…?」
 
やや電話を離し気味にT13が尋ねる。
 
『おれですっ、B08ですっ、』
「ああ、」
 
T13の脳裏に去年まで生徒だった少年の顔が浮かんだ。
 
「どうしました?」
 
電話でやり取りを続けている13を見ながら10が04に囁く。
 
「すごいよな、生徒だって解ったら急に先生の顔になるのな、」
「うん。でもさ、君だってほとんどpapaの顔だぜ?」
「!?だ、だれのだよ、」
「もちろん、Willさ。」
「うう五月蝿い、だれがあんなやつっ、」
「えっ、Willかッ!?」
「真似するなッ、」
「はははっ、」
 
騒がしくなってきた二人にT13が声をかける。
 
「もう、何やってるんです、二人とも。」
「いや、papaがさ、」
「papaじゃねぇっ!」
「10。我慢なさい、04は酔うといつもこうでしょう?」
「だってさぁ、苛めるんだよ、おれの事ッ、」
「あーもう、泣かない泣かない。笑わない笑わない…。
二人とも奥へ行くか、もう、帰ってくれますか?」
「「えーっ、なんでーっ??」」
「ちょっとね、来客があるんです。」
「女?」
 
04があ、と頷く。
 
「さっきの電話の子?」
「ええ、だから二人とも…、…。」
 
不意に言葉を切って考え込む13に揃って首を傾げる。
 
「「?」」
「いえ、好いです。居てください。」
「やったぁ〜!んじゃ、日本酒追加ねぇ!」
「…いいえ、coffee になさい。」
「Boo。」
「Boo。」
 
今度は仲良く非難の声を上げる二人にかまわず13は片付け始める。
程無くして、doorbell(呼び鈴)が来客を告げた。
 
「どうぞ、ああ、夜はまだ冷えますね。寒かったでしょう、」
 
微かに聞こえる声に10が口を尖らせた。
 
「なんだよ、おれ等にはない優しさだなっ、」
「仕方ないよ、可愛い生徒だもの。」
 
13に連れられて来たのはまだ幼さの残る少年だった。
 
「あ、こんばんわ。」
「こんばんわ、どうぞ、」
「おう、あがれよ!」
「…君達の家じゃないでしょうが。悪いですね、B08。」
 
二人はまた、顔を見合わせた。
 
「えっ、Agentッ!?」
「そうです。彼は立派なAgentですよ、この春からね。B08、こちらは、」
「あ、知ってます。M04さんとM10さんですよね?」
「あ、ああ。」
「う、うん。」
 
少したじろぐ二人に少し微笑んで13はす、と立ち上がった。
 
「君はcoffee は苦手でしたよね。hot milkでも入れましょうか、
少し、気が立っているようですし。」
「あ、すいません、」
「いいえ、構いませんよ。」
「そうだ、気にするなよ、少年ッ。」
「君が言うなよ、10。」
 
再び、小競り合いを始める友人達と、戸惑う様子の元教え子を見て、
ふ、と笑みを唇に乗せたまま、T13がkitchen へと消える。
 
鍋にミルクを注いで火を付ける。
冷蔵庫に確か、チョコレイトがあった筈だ、と探っていると
livingから笑い声が聞こえてきた。
いつもの声に混じって、いつのまにか溶け込んだ高い声も響いている。
その楽しそうな様子に彼も静かに微笑んで。
 
「彼らに居てもらって正解、でしたね。」
 
Agentの悩みはAgentしか解らない。
自分はもう一線を退いた身、かけてやれるのは一時の慰めだけ。
そう思って彼らに託してみたのだった。
 
 
「悪かったですね、何だか騒がしくて。」
「いいえ、楽しかったです、ご馳走様でした。」
「本当に今から帰るのですか?何なら泊まっていっても、」
「いえ、もう、大丈夫です、おれ。」
「…そうですか。」
 
来た時と打って変わってしっかりとした目を見て、13はにっこりと
微笑んだ。もう、大丈夫、という言葉に嘘はないらしい。
 
「ぼくが送っていくよ、13。心配しないで。」
「頼みますね、04。あ、と、君の家はどこでしたっけ、」
「C地区の方です、」
「あ、だったら、04、悪いんですが…、」
「O.K. 解ってるって、Willだろ?本当はケンカじゃないか、と。」
「信じてはいますけどね。万が一、一人だったら困りますから。」
「もし居たら僕の家に連れて行くよ。ね、先生?」
「…お願いします、」
 
冗談めいた04の言葉に苦笑で答える13に別れを告げて二人は
春先の夜を歩き出す。
昼にはもう重く感じるコートも夜には少し肌寒い。
 
「うう、まだ夜は冷えるね、」
「はい。」
「…どうして13に電話したのか、聞いてもいいかい?」
「おれ、実はM08の息子なんです。」
「そうなんだ、へぇ、彼に息子が居たんだねぇ、」
「あんまり例がないから。子供もこの会社に入るのって。」
「まァ、何せ、Sercret だからね、うちって。」
「影で、いろいろ言われて…。」
「?」
「いつから世襲制になったんだ、とか…。」
 
ふう、と吐いた息は白煙になって夜空に立ち昇っていく。
04は何もいわずに彼の言葉の続きを待った。
 
「親父を尊敬してるし、そう言われるのは親父が偉大だからだって
思うし。そんなの仕事ぶりで見返してやれば好いって、頭では
解ってるんだけど、」
「うん。」
「おれ、甘えていたんだと思います。もう、先生を
頼っちゃいけなかったのに。つい、」
「そうだね。君はもっと強くならなくちゃいけないよ。」
「はい、」
 
神妙な面持ちで頷くひどく若い後輩にM04はぷ、と吹き出した。
 
「?」
「でもさ、13、嬉しかったんだよ、」
「え?」
「電話でさ。相手が君だって、元生徒だって解った時。」
 
少し思い出すように目を細めて。
 
「すごく優しい顔になった、先生の顔。君が来るんだって、
嬉しそうにしてたんだぜ、本当に。彼は認めないだろうけど。」
「おれ…、先生が先生で本当に好かったって思います。」
「うん。」
 
04はふっと、彼が歌うように言った言葉を思い出していた。
 
梅は咲いたか、桜はまだか。
 
「明後日からおれ、初任務です!」
「頑張れよ、」
「はいっ、」
 
君の手柄を誰よりも待っている人が居るから。
知らせてやって、君が咲かせた桜の花を。
 
数歩前を元気よく歩く自分より少し小さな背中を見つめて
そして、嬉しそうにしていた友人の顔を思って04は微笑んだ。
 
空には星が輝いている。
真冬より少しくすんで見えるそれは春が近い事を知らせていた。



実は、駄洒落から思いついたお話なんです(暴露)。             
「こらっ、ハチ!やめなさいってば!!」             
ハチ→八兵衛→八→08。おお!て感じで(笑)。             
なななんて好い加減な…;だから08くんのモデルは             
うちのやんちゃ子猫です。一応14,5歳位の設定です。             
それプラス、新社会人の方々へのエールも込めてv             
如何でしたか?

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